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4月に読んだ本(ブクログ) [BOOK]

「ノエル」道尾秀介 [BOOK]

この作品は、過去に発表された3つの中編が集まったもの。それぞれ絡み合い、オリジナルの第4章で完結、という感じなのでしょうか。

最初の「光の箱」は2008年のStory Sellerで発表されたもの。今は成功している童話作家(男)と挿絵作家(女)が子供時代に体験したのは同級生や親からの暴力で、そこから逃避するように物語を考え、絵を描いていた。中学で同級生だった彼らが育んだ友情、愛情、生まれた誤解、離別とその後が書かれている。ストーリーには、彼が作る温かい物語が交わる。

2話目の「暗がりの子供」は2011年に小説新潮に掲載されたもの。生まれつき片足が不自由で肥満でもある主人公の女児は、学校でいじめられており、母親のおなかの中の妹に嫉妬する。また、病気療養中の祖母が在宅療養になることも控えているが、両親にとって、赤ちゃんの誕生は嬉しいことで、祖母の面倒はそうでもなさそうである言動に傷つく。
現実から逃避する方法は童話を読むこと(それが、1話めの作者たちが作ったものです)。物語の中の主人公と脳内で会話をするようになり、妹への嫉妬から怖いことを考えたりもする。その若々しい物語が交わる。

そして3話目「物語の夕暮れ」は今年小説新潮の5月号に掲載されたもの。教師を退職して児童館で読み聞かせをしている老人が、奥さんの死後、生きがいをなくしている話。彼は自分が生まれ育った故郷の家に、今、(1話目の)作家が住んでいることを知り、祭りの音を電話で聞かせてほしいと手紙を送る。祭りは、亡くなった奥さんとの思い出が詰まったものだからだろうか。彼もまた幼少期から物語を紡ぎ、亡くなった奥さんに子供のころから物語を聞かせてきた。その物語が随所に交わる。

これら3話がさらに絡み合い、素敵なラストにつながっていくのです。
3話それぞれも、その中の物語も素晴らしく、またそのラストも本当にマジックです。



ノエル: a story of stories

ノエル: a story of stories

  • 作者: 道尾 秀介
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2012/09/21
  • メディア: 単行本



「ひっ」戌井 昭人 [BOOK]

情熱大陸で戌井昭人さんを見て、そのうち書店で見つけたら読んでみようかな~程度に思っていたもの。

実際、何気なく書店をぶらぶらしていたら、背表紙にキャッチされた感じで購入。やられた。

感想。男っていくつになっても子供だな。

「ひっさん」という伯父さん(たしか、名前はひさしさん?)を慕う青年が主人公のお話なんだけれど、ひっさんも、この青年も破天荒。

「ひっさん」が死んで遺品の整理にでかける青年。仲間と一緒に「ひっさん」が行きつけの店に行くと、入れていたボトルに「ひっ」と書いてある。本のタイトルはそこから来ているのだろうか。

なんとなく面白く、一気に読める感じなのだけれど、女だからなのか真の面白さがわからなかったデス。


ひっ

ひっ

  • 作者: 戌井 昭人
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2012/08/10
  • メディア: 単行本



「凍りのくじら」辻村 深月 [BOOK]

近所の書店で、直木賞を受賞した辻村深月さんの作品を集めたフェアをやっていたので、実はひとつも読んだことがないことから物色してみた。こういう自分の行動を改めて考えてみると、賞の効果って大きいのだな。

その中でわたしが選んだのは「凍りのくじら」。どれも面白そうだったので、装丁で選んだ感じです。こう考えると、CDのジェケ買いじゃないけど、見た目って大事です。

読んでみてびっくりしたのは、この作品の面白さもさることながら、ドラえもんの世界とか藤子先生のすごさ。子供のころのドラえもんの記憶は「わたしにもドラえもんがいたらいいな」と思ったり、「こういう道具があったらいいな」と考えた程度だけれど、この作品を読んで、もっと深い作品だったのだと思い知らされた。

話は飛ぶけれど、子供のころに「ドラえもんの道具」と「怪物くんの怪物」の募集というのがあって、(「小学○年生」的な雑誌の企画だったか?)、意気込んで両方応募した。結果、怪物のほうで何位か覚えていないような賞をもらった(賞品も覚えていない)けれど、自信作のドラえもんの道具はダメだったのだ。「季節販売機」といって、自販機のボタンで好きな季節を再現できるというもの。

考えてみると、それがのび太のダメな性格と、この道具を使うことで起こる出来事と、最後にこの道具はなくてもよいと思わせるストーリーが描けないな。

「凍りのくじら」は、ドラえもん好きな親に育てられた、ドラえもん好きな女子高生が主人公。写真家の父は数年前に死を悟って消え、母親も癌で余命わずか。冷めた性格の主人公はだれとも本音で接することなく、適度な距離感を保つ。別れたはずの病的な彼氏ともスッパリ切れることがなく、曖昧な関係を続けているうちに、気が付くと大変なことに巻き込まれている。そんな話。ジャンルとしてはミステリーなのかな。

彼女に写真のモデルをお願いしたいと声をかけてきた男性が何者なのか。この男に対しては素直になれるのがなぜなのか。そんな謎が素敵なラストにつながっていく。

主人公が過去を回想したり、元彼を表現したりするときに、随所にドラえもんの道具が出てくる。章立てもドラえもんの道具で、なんだかおもしろい構成。読んでいるうちに、改めてドラえもんを観たくなった。


凍りのくじら (講談社文庫)

凍りのくじら (講談社文庫)

  • 作者: 辻村 深月
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2008/11/14
  • メディア: 文庫



「光」道尾秀介 [BOOK]

田舎町を舞台にした、子供たちの冒険ストーリー。

それぞれ育った環境の違う小学4年生の男子4人(途中からもう1人)と、うち1人の2歳上の姉。それぞれ、器用だったり不器用だったり、金持ちだったり貧しかったり、頭が良かったり、寂しがりだったり、性格の様々な子供たち。
つるんで遊び、危険な場所に行ってみたり、傷つけあったり、相手を見返してやったり、贈り物をするために危険な賭けにでたり、子供って忙しい。初恋も、それによる嫉妬もある。でも、子供ってこうだよね、という描写が随所にちりばめられている。

そして、子供らしいといえば、将来の夢を語るところ。カセットテープに吹き込むこの夢が伏線になっていて、素敵なラストにつながっていきます。

「月と蟹」も少年心理の描写が巧みでしたが、あれはちょっと変わった境遇だったかも。その点、この作品は誰にでもあてはまる懐かしさがありそうで、特に夏休みに読むのにピッタリな感じです。



光

  • 作者: 道尾秀介
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2012/06/08
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



「ロスジェネの逆襲」池井戸潤 [BOOK]

池井戸さんの作品は勧善懲悪だとわかっていても、やっぱり惹きつけられて、一気に読んでしまう。

「ロスジェネの逆襲」は、銀行の子会社である証券会社が舞台。そこには銀行から出向しているバブル世代の社員と、証券会社プロパーのロストジェネレーション世代の社員がいる。親会社である銀行に戻りたくて手柄を立てたい出向社員と、ほかに行き場はないのに面白い仕事を任せてもらえないプロパー社員はうまくいかない。どこも一緒ですね。

そんな証券会社に事件が起こり、出向社員なのに親会社のことなど気にしない顧客目線の半沢と、くさりかけていたプロパー社員の森山が力を合わせて問題を解決していくお話。

ストーリーは、証券会社に企業買収の相談が舞い込み、そのスキームを練っている間に、親会社である銀行から黙ってその案件を横取りされることから始まる。怒った証券会社側は、買収される側の会社のアドバイザーとなり、買収を阻止しようとする。それって同じ企業グループの利益相反じゃないの!?と思うけれど、そこは池井戸さんの作品、よくできています。

バブル世代を疎ましく思うロスジェネ世代に働く意味、面白さを教えているだけでなく、バブル世代も団塊世代も改めて仕事にやる気を持たせてくれそうな爽快なストーリーです。


ロスジェネの逆襲

ロスジェネの逆襲

  • 作者: 池井戸 潤
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2012/06/29
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



「Happy Box」ペンネームに“幸”がつく5人の作家 [BOOK]

ちょっと時間があいたので、書店をブラブラしていて目に付いたこの作品。
小路幸也さん大好き、伊坂幸太郎さん好き、の私にとっては、書き下ろしだし読むしかないでしょ。と思って購入。 山本幸久さん、真梨幸子さん、中山智幸さんはこれまでご縁がありませんでしたので、こういう機会にぜひとも読もうと思ったしだい。

ペンネームに「幸」の字が入っている作家さん、意外と多いようですね。本名かどうかはわかりませんが、やはり幸せへの思いが込められた作家さんたちのアンソロジーですから、どんなにハッピーなのかしら?と読んでみたところ。。。

なかなか変化球の数々。以下はネタばれにならない程度の感想です。

伊坂幸太郎さんの「weather」は、お天気の話が得意な男性が主人公。舞台は親友の結婚披露宴ですが、この親友の過去の女性関係をいろいろ知っているため気が気でない。結婚披露宴は無事にハッピーエンドとなるのか、ドキドキしながら一気に読んで、なかなか感動する作品。伊坂幸太郎らしさがプンプンします。

山本幸久さんの「天使」。これはスリ師のお話なので終始切ない空気感なのですが、スリ師といっても心はすれていなくて、孤独なのに優しくて、なんとなく心が温まるお話。

中山智幸さんの「ふりだしにすすむ」は、前世とか来世とかのお話なので、現実味はないけれど、実際にこういうことがあったら幸せかもなぁと思える作品。

真梨幸子さんの「ハッピーエンドの掟」は、お母さんが水商売をしながら狭いアパートに暮らす母子家庭が玉の輿に乗って幸せになるお話。と思ったら、同じアパートに住んでいた子がハッピーになるお話なのかも。ちょっとした意地悪ですごくハッピーな気持ちになることあるよねぇと思える作品。

そして小路幸也さんの「幸せな死神」。死神が幸せになれるのかしら??という疑問はさておき、主人公の若い女性はある日ややあってイケメンの「死神さん」とお友達になる。この死神さんとの交友の中で彼の悩みを知り、願いをかなえてあげようとするお話。

どの作品も短くて若干物足りなさもありますが、とにかく、いろいろな幸せがあるなと感じます。


Happy Box

Happy Box

  • 作者: 伊坂 幸太郎
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2012/03/08
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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