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「海の祭礼」吉村昭 [BOOK]

常に満足度の高い吉村昭作品の中でも、これはかなりのお気に入りに分類されそう。

「海の祭礼」は、ペリーの黒船来航から開国までの史実を、その通訳にあたった森山栄之助を中心に描いている。長崎でオランダ語に長けた一通訳だった森山が、江戸に呼ばれ、重要な交渉の場で通訳をこなしていく。各国との交渉にはオランダ語が使用されていたが、実は森山は英語も話せるので、非常に重宝がられた。彼の積み重ねた知識と経験で、通訳者の枠を超えて開国前後の日本を支えていたのだ。

そんな森山に誰が英語を教えたのか?それがこの「海の祭礼」のもうひとつのストーリー。アメリカに移住したスコットランド人と現地インディアンの混血ラナルド・マクドナルドは、アメリカで差別を受ける。いつしかアメリカから出ようと決意し、捕鯨船の乗組員として日本近海にやってくる。そして捕鯨船がアメリカに戻るときに、彼は一人でボートに乗って日本に向かうのだ。そして北海道の利尻島に流れ着く。

当時の日本では、漂着した外国人を長崎に連れて行き、そこからオランダ船で国外に送ることになっていたので、ラナルドも長崎に行って通訳の森山に出会う。ラナルドは温厚で、日本語を熱心に学ぼうとしていたので、逆に森山は彼から英語を学ぶことを考える。そして、彼を国に送還する船が来るまでの数ヶ月、森山はラナルドから本場の英語を伝授してもらうのだ。

ラナルドが日本にやってこなかったら、英語を流暢に話す日本人がいなくて、外国人との交渉も大変だったはず。そんなラナルドの功績はほとんど知られることはなく、この「海の祭礼」が出版されてラナルドの故郷で話題になり、顕彰碑が建てられたというのも面白い。

海の祭礼

海の祭礼

  • 作者: 吉村 昭
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2004/12
  • メディア: 文庫

ちなみに「アメリカ彦蔵」もオススメ。 ⇒過去のブログ
こちらは難破してアメリカに渡った日本人少年の話で、同じ時期のアメリカの様子がわかります。

アメリカ彦蔵

アメリカ彦蔵

  • 作者: 吉村 昭
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2001/07
  • メディア: 文庫


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コメント 2

ETCマンツーマン英会話

知人のスコットランド人に「日本人に最初に英語を教えたネイティブスピーカーはスコットランド人だ」と自慢され、ルナルド・マクドナルドの存在を知りました。『海の祭礼』、とても面白かったです。また森山氏の最期はとても印象深いものがありました。同書のご紹介に感謝です。
by ETCマンツーマン英会話 (2012-04-16 22:11) 

koma

コメントありがとうございます。私も久しぶりに「海の祭礼」を読みたくなりました。
by koma (2012-05-04 21:54) 

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